タンスの奥に眠っていた、お母様やお祖母様から譲り受けた大切な着物。
久しぶりに広げてみたら、思いがけない場所にシミが…。そんな経験はありませんか?
「もう着られないかもしれない」と諦めてしまう前に、ご自身でできることがあるかもしれません。
この記事では、着物にできてしまった古いシミについて、家庭でのお手入れ方法や、その際の重要な注意点、そして専門業者に頼るべきケースの見極め方まで詳しく解説していきます。
そのシミ自分で落とせる?古いシミの種類と見分け方

着物に付着したシミは時間との勝負です。特に古いシミは繊維の奥深くまで浸透し、化学変化を起こしているため簡単には落ちません。
まずは、シミの種類と自分で対処可能かを見極めましょう。
なぜ古いシミは落ちにくい?着物のシミが定着するメカニズム
付着したばかりのシミは比較的落としやすいですが、時間が経つほどシミの成分は繊維と強く結びつき、酸化・変質します。
例えば、食べ物の汚れは酸化により黄色く変色して固まり、水分を含む汚れは乾燥により汚れが凝縮され落としにくくなります。
まずはシミの種類を特定!自分で対処できる可能性のあるシミとは
シミ抜きに挑戦する前に種類を特定することが重要です。種類によって対処法が異なります。
- 水溶性のシミ(例:汗・お茶)
水に溶けやすいシミです。付いたばかりなら水や薄めた中性洗剤で落としやすいですが、古くなると色素が定着し落ちにくくなります。 - 油溶性のシミ(例:化粧品)
油分を多く含むため水だけでは落ちにくく、ベンジンなど油を溶かす溶剤が必要な場合があります。襟元の黄ばみは皮脂汚れが酸化した代表的な油溶性の古いシミです。 - 混合性のシミ(例:食べこぼし)
水溶性と油溶性の成分が混ざっており、両方に対応できる対処法が求められます。 - 不溶性のシミ(例:泥・墨汁)
水にも油にも溶けない成分のシミです。表面に付いた状態なら叩き出せることもありますが、繊維の奥に入り込むと厄介です。
自分で処理すると悪化する可能性が高いシミ
無理な処理はシミを広げたり生地を傷めたりする可能性があります。以下のシミは専門業者への依頼を推奨します。
- 時間が経過しすぎた頑固な黄変・茶褐色に変色したシミ
繊維自体が化学変化を起こし、家庭用の処置では効果が薄く、専門的な知識と技術が必要です。 - 原因不明の古いシミ
原因不明では適切な対処法が選べず、着物を傷める可能性があります。 - 広範囲または複数の種類のシミが混在する場合
複雑な処理が必要で家庭での対応は困難です。 - カビによるシミ(特に根深いもの)
表面的なカビは対処できる場合もありますが、根深いカビや広範囲のカビは完全除去が難しく、臭いが残ることもあります。 - 金彩・銀彩・刺繍・絞りなど特殊加工部分のシミ
非常にデリケートで、自分でシミ抜きを行うと加工の剥がれや変色、糸のほつれなどのリスクが高いため避けましょう。
自分でシミ抜きに挑戦!始める前の準備と心構え

「自分で何とかなるかも」と思っても、いきなり作業を始めるのは禁物です。適切な道具を揃え、必ずテストを行い「無理はしない」という心構えが大切です。
シミ抜き作業の前に揃えておきたい道具とアイテム
家庭でのシミ抜きにあると便利な基本的な道具です。
失敗を防ぐ!シミ抜き前の「共布テスト」と「素材確認」
シミ抜き前に必ず「共布テスト」を行います。これは着物と同じ布地(共布や縫い代の目立たない部分)で、洗剤や薬剤が色落ち・変色・生地の傷みを引き起こさないか確認するテストです。
共布テストの手順
- 共布の端に使用予定の薬剤を少量つけます
- 白い布で軽く叩くか数分置き変化を見ます
- 水で洗い流し乾かして再確認
色がにじんだり風合いが変わったらその薬剤の使用は避けます
着物の素材確認
品質表示タグを確認し、不明なら呉服店に相談しましょう。
自分でシミ抜きを行う際の心構えと限界の認識
自分でシミ抜きに挑戦する際は「完璧に落とそうとしない」心構えが大切です。
家庭での処置は「目立たなくする」「悪化させない」応急処置と捉え、無理は禁物になります。不安を感じたら作業を中断し、専門家に相談しましょう。
【種類別】自分でできる古いシミの落とし方

準備と心構えができたらシミ抜きに挑戦です。シミの種類別に、家庭で試せる落とし方を紹介します。必ず共布テストを行い、素材に配慮し慎重に作業を進めてください。
水溶性の古いシミ(例:お茶など)
お茶や乾いて時間の経った醤油のシミなど。色素沈着で完全に落とすのは難しいかもしれませんが、目立たなくできる可能性があります。
- 水を含ませたタオルでのたたき出し
シミの下に乾いた白いタオルを敷き、水で濡らし固く絞った別の白いタオルで優しく叩き、汚れを下のタオルに移します。擦るのは厳禁です。 - 中性洗剤を使った部分的な処理方法
上記で改善しない場合、おしゃれ着用中性洗剤を薄めたものを綿棒に少量つけ、シミに優しく叩き込み汚れを浮かせます。
水を含ませたタオルで洗剤成分と汚れを丁寧に叩き出し、下のタオルに移します。洗剤が残らないよう数回繰り返します。
油溶性の古いシミ(例:化粧品など)
ファンデーションや襟元の皮脂汚れによる黄ばみなどには、油分を分解する処理が必要です。
- ベンジンを使った油分の分解と吸い取り
シミの下に乾いた白いタオルを敷き、別の白いタオルにベンジンを少量含ませ、シミを外側から中心へ軽く叩き汚れを下のタオルに移します。 - 注意点:ベンジンの正しい使い方
- ベンジンは引火性が高いため火気厳禁。
- 吸い込むと有害なので換気を十分に行う。
- 皮膚に触れないようにゴム手袋を着用する。
黄ばみ・黄変
全体の黄ばみや部分的な濃い黄変は繊維自体の変化が多く、家庭での対処は非常に困難です。
黄ばみは漂白処理が必要ですが、家庭用漂白剤の使用は生地を傷めるリスクが高いため、無理に自分で処理せず、着物専門のクリーニング店に相談しましょう。
カビ
湿気の多い場所に長期間保管するとカビが発生します。早めの対処が肝心です。
- 表面的なカビの払い方
屋外で陰干しし乾燥させ、柔らかい布やブラシでカビをそっと払い落とします。 - カビ臭や根深いカビは専門家へ
カビ臭が取れない、色素沈着がひどい場合は家庭での対処は困難。専門業者に依頼しましょう。
自分で困難ならプロの手に!専門業者に依頼する判断基準と選び方

自分で試しても落ちない、リスクが高いと感じる場合は、無理せず専門業者に依頼するのが賢明です。
専門業者に相談すべきタイミング
以下の場合は専門業者に相談しましょう。
専門業者に依頼した場合の料金相場と期間の目安
料金はシミの種類、範囲、着物の種類などで大きく変動します。
まとめ:大切な着物と長く付き合うために知っておきたいこと
家庭でのシミ抜きは応急処置であり、すべてのシミを完璧に落とせるわけではありません。無理に解決しようとして状態を悪化させないよう、慎重な判断が必要です。
「自分で大丈夫かな?」と少しでも迷ったら、無理をせず着物の専門家に相談してください。専門家による適切な診断で最善の対処法を提案してもらえますよ。